アース線をつけないとどうなる?感電リスクや対処法を電気工事士が解説

アース線をつけないとどうなる?感電リスクや対処法を電気工事士が解説

こんにちは。横浜電気工事レスキューの主任電気工事士「天谷富士夫」です。

家電を買うと必ずと言っていいほど付いてくる、あの緑や黄色の細い線。「アース線」ですね。

「アース線をつけないとどうなるの?」「つける場所がないときはどうすればいいの?」といった疑問を持つお客様は、私の現場でも本当によくお会いします。

特にアパートや古い住宅だとコンセントに差し込み口がなくて困ってしまったり、面倒だからとつい束ねたまま床に垂らしてしまったりすることもあるかもしれません。

でも、もしもの時の安全を考えると、そのままにしておくのは少し心配です。

今回は、アース線を繋がないと具体的にどのようなリスクがあるのか、そして物理的に場所がない場合の対処法や代用手段について、現場のプロの視点からどこよりも分かりやすく、そして詳しくお話しします。

記事のポイント

  • アース線を接続しない場合の感電や漏電火災といった事故リスク
  • 電子レンジや洗濯機など家電ごとのアース接続の必要性と内線規程などの法的な背景
  • コンセントにアース端子がない賃貸住宅やアパートでの安全かつ現実的な対処法
  • 延長コードやプラグ型漏電遮断器を活用した具体的な解決策と注意点
目次

アース線をつけないとどうなる?感電や火災の危険性を解説

「アース線なんて繋がなくても家電は動くし、本当に必要なの?」と聞かれたら、私はいつも「車をシートベルトなしで運転するようなものです」とお答えしています。

普段は何の役にも立っていないように見えますが、いざ事故が起きた瞬間に生死を分けるのがアース線です。

ここでは、アース線をつけない状態で使い続けると具体的にどのような危険が潜んでいるのか、電気的なメカニズムを交えてプロの視点で掘り下げていきます。

必要なのか?絶対につけないとダメですか?

一般家庭において「繋がないと直ちに法律違反で罰せられる」というケースは稀ですが、電気工事士としての見解は「安全上、絶対に繋ぐべき」です。

アース(接地)の最大の役割は、電気が本来の回路から漏れてしまったとき(漏電時)に、その電気を速やかに地面(地球=Earth)へ逃がしてあげることです。

もしアース線をつけていない状態で漏電が発生すると、行き場を失った電気は、その家電の金属部分(筐体)に留まります。

そして、何も知らない人がその家電に触れた瞬間、電気が人の体を通って地面へ流れようとします。

これが「感電」の正体です。

特に200Vで動作するエアコンや、水気のある場所で使用する家電は、感電した際の人体へのダメージが非常に大きくなるため、電気設備の技術基準でも接続が強く求められています。

必要なのか?絶対につけないとダメですか?
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繋がなくても家電は使えますか?なくても大丈夫ですか?

はい、アース線を繋がなくても、プラグさえコンセントに挿せば家電製品は問題なく作動します。冷蔵庫は冷えますし、電子レンジも温まりますし、洗濯機も回ります。

この「繋がなくても動いてしまう」という事実が、多くの方がアース接続を後回しにしたり、軽視してしまったりする最大の原因なのです。

しかし、「動くから大丈夫」というのは非常に危険な誤解です。

新品のうちは絶縁性能が高くても、長年使っているうちに内部の配線被覆が劣化したり、湿気や結露で水滴が内部回路に付着したりして、ある日突然漏電が発生するリスクはゼロではありません。

正常に動いている家電が、ある瞬間から「触れると危険な帯電物体」に変わる可能性があるのです。目に見えない電気だからこそ、事前の備えが不可欠だと言えます。

ここがポイント

アース線は「家電を動かすための線」ではなく、「人の命を守るための命綱」です。

普段は役に立っていないように見えても、万が一の故障や事故が発生した際に、あなたやご家族を守る唯一の砦となります。

事故リスク!漏電による感電と火災

アース線をつけない最大のリスクは、やはり感電事故です。人間の体は水分を多く含んでいるため、電気を通しやすい性質を持っています。

アース線がない状態で漏電している洗濯機や冷蔵庫に触れると、アース線の代わりに人体が電気の通り道となってしまいます。

微弱な電流なら「ビリッ」とする程度で済みますが、電流の大きさによっては筋肉が痙攣して動けなくなったり、最悪の場合は心停止に至る死亡事故につながることもあります。

さらに恐ろしいのが火災です。漏電した電気が逃げ場を失うと、コンセント周りのほこりや湿気を含んだ建材部分に流れ込み、そこで熱を持ち始めます。

これが長時間続くと、周囲の可燃物が炭化して発火点に達し、火災を引き起こします。これを「漏電火災」や「トラッキング現象による火災」と呼びます。

ここで重要になるのが「漏電ブレーカー」との関係です。

アースが正しく繋がっていれば、漏電した瞬間に電気が地面へ逃げるため、分電盤の「漏電ブレーカー」が即座に異常を検知して電気を遮断しやすくなります。

しかし、アースがないと漏電電流の逃げ道がなくなり、ブレーカーが反応しないまま危険な状態が続いてしまう恐れがあります。

最悪の場合、「人が家電に触れて感電して初めてブレーカーが落ちる」といった事態になりかねず、これでは身を守る役割として不十分なのです。

漏電とアース工事、漏電遮断器の基本的な仕組みについては、公益法人の解説も参考になります。

(参考:漏電発生の仕組み|関西電気保安協会

洗濯機の漏電リスクやブレーカーでの確認方法については、『洗濯機の漏電!原因と対策およびブレーカー確認法』の記事ででさらに詳しく解説しています。

事故リスク!漏電による感電と火災
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知恵袋でも話題の電子レンジや冷蔵庫の接続

インターネットのQ&Aサイトや知恵袋などでも「電子レンジのアース線は邪魔だけど切ってもいい?」「冷蔵庫の裏にアース端子がないから放置している」といった相談をよく見かけます。

しかし、これらは非常にリスクの高い判断です。電子レンジは、内部で数千ボルトという非常に高い電圧を作り出してマイクロ波を発生させています。

万が一漏電した時のエネルギーは他の家電と比べても大きく、大変危険です。また、電子レンジは動作中に強力な電磁波(ノイズ)を発生させます。

アースを繋ぐことで、このノイズを逃がし、近くにあるWi-Fiルーターの通信が途切れるのを防いだり、ラジオの雑音を減らしたりする効果も期待できます。

冷蔵庫に関しては、一度設置すると何年も動かさないのが一般的です。そのため、裏側にホコリが分厚く溜まりやすく、さらにコンプレッサー周辺は温度差による結露も発生しやすい環境です。

「湿気+ホコリ」は漏電の温床です。気付かないうちに漏電しているケースも多いため、冷蔵庫は必ず接続してほしい家電の一つです。

豆知識

最近の冷蔵庫は背面にアース線(緑色の線)が見当たらないことがあります。

実はこれ、最近の機種ではアース線が同梱されておらず、別途購入が必要なケースが増えているためです(以前のように最初からネジ止めされていないことが多いです)。

最近の家電は絶縁性能が高くなっていますが、水回りで使う冷蔵庫は安全のためアース接続が推奨されています。

もし背面に緑の線がなければ、一度説明書で付属品や接続方法を確認してみてくださいね。

洗濯機やトイレなど水気のある場所は要注意

水と電気は非常に相性が悪く、皮膚が濡れていると電気抵抗値が極端に下がるため、乾いている時よりも遥かに小さな電圧で致命的な感電事故につながります。

そのため、洗濯機温水洗浄便座(トイレ)のアース接続は、法令(電気設備の技術基準)や内線規程でも義務付けに近い形で強く求められています。

実際、2023年の内線規程の改定では、これから新しく設計・施工される住宅などの水回りのコンセントについては、アース端子(接地極)付きコンセントを用いることが原則として義務付けられました。

最近の新築物件などで、洗濯機置き場やトイレのコンセントに最初からアース端子が付いていることが多いのはこのためです。

「ここは危険だから必ず繋いでね」というプロからのメッセージだと思ってください。

もちろん、既存の住宅ではまだ古いタイプのコンセントが残っている場合もありますが、もしアース線が届かない場合でも、決して無視せずに延長などの対策を講じることが、家族の安全を守る最低限のルールです。

この点については、経済産業省が定める「電気設備の技術基準の解釈」などでも明確な規定があります。

(参考:経済産業省『産業保安 - 電気設備の技術基準』)

洗濯機やトイレなど水気のある場所は要注意
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エアコンの室外機や除湿機もアース接続が重要

洗濯機や電子レンジのアースは気にしていても、意外と盲点になりがちなのが「エアコン」「除湿機」です。

「部屋の中で使うものだし、そんなに危険じゃないでしょ?」と思われるかもしれませんが、電気工事士の視点から見ると、これらは実は漏電リスクのエリートと言っても過言ではありません。

なぜこの2つが特に危険なのか、その理由とチェックポイントを現場の経験から解説します。

1. エアコン室外機は「雨ざらしの電気製品」

エアコンの室内機は部屋の中にありますが、心臓部である「室外機」はどこにありますか? そう、屋外です。雨、風、直射日光、土埃、そして時には雪にさらされながら、一年中過酷な環境で動き続けています。

絶縁の劣化が早い

過酷な環境ゆえに、内部の配線やモーター(コンプレッサー)の絶縁被覆が劣化しやすく、室内家電よりも漏電が発生する確率が高いです。

高電圧の恐怖

リビング用の大型エアコンなど、14畳を超えるモデルの多くは「単相200V」で動作しています。100Vの家電で感電しても相当痛いですが、200Vでの感電は衝撃が全く違います。

人体へのダメージが極めて大きく、死亡事故に繋がるリスクも跳ね上がります。

2. 除湿機は「水と電気が同居する」家電

梅雨時や夏場に大活躍する除湿機も、構造的には「小型のエアコン」と同じで、内部にコンプレッサーを持っています。そして何より、「水を溜めるタンク」を頻繁に出し入れしますよね。

タンクの水を捨てる際、手はどうしても濡れてしまいます。その濡れた手で本体のスイッチを操作したり、コンセントを抜いたりする行為は、漏電していた場合に感電する条件が完璧に揃ってしまっているのです。

キャスター付きで振動も多いため、内部配線が擦れて傷つきやすいのもリスク要因の一つです。

3. 引っ越しやエアコン移設時はここをチェック!

エアコン設置工事において、アース工事(D種接地工事)は法律(電気設備の技術基準)で義務付けられています。私たちプロの電気工事士が設置する場合、絶対にアースを省略することはありません。

移設時のトラブルに注意

引っ越し業者さんや、安価な取り付け業者さんに依頼した際、稀にですが「アース線が接続されていない」あるいは「アース線が切れたまま放置されている」ケースを見かけます。

特に室外機側のアースは、外壁のコンセントや地面のアース棒に接続されることが多いのですが、室外機の裏側や側面を一度覗いてみてください。

緑色の線がどこにも繋がらずにプラプラしていたら、すぐに業者に連絡して接続を依頼しましょう。

エアコンの室外機や除湿機もアース接続が重要

線が切れたり床に垂らす状態のリスク

現場でお客様の冷蔵庫や電子レンジの裏を拝見すると、「アース線はあるけれど、繋ぐコンセントがないからそのまま床に垂らしている」という光景によく出くわします。

「電気は流れていないから大丈夫だろう」と思って放置されがちですが、実はこの「ぶら下がりアース」には、意外な危険がいくつも潜んでいるんです。

単に見栄えが悪いだけでなく、物理的な事故や電気トラブルの火種になる可能性があるため、決して軽視できません。

1. 物理的な断線と機器へのダメージ

床に無造作に垂れ下がったアース線は、日常生活の中でさまざまなダメージを受け続けます。

  • 掃除機による巻き込み
    特にロボット掃除機は細いコードを認識するのが苦手です。アース線を巻き込んで停止してしまったり、無理に引っ張られて家電本体が動いたり転倒したりする原因になります。
  • 家具による踏みつけ
    冷蔵庫や棚を少し動かした拍子にアース線を脚で踏んでしまい、内部で銅線が断線(切れてしまう)することがあります。これでは、いざアース工事をして繋ごうとしても役に立ちません。
  • 被覆の損傷
    人が頻繁に通る場所だと、足で踏まれたり擦れたりして緑色のビニール被覆が破れ、中の銅線がむき出しになってしまうこともあります。

2. ショート(短絡)事故の引き金になる恐れ

私が最も危険だと感じるのは、「先端の銅線がむき出しのまま放置されている」ケースです。通常、アース線には電気は流れていません。

しかし、むき出しになった銅線の先端が、たまたま近くにある電源タップの差し込み口に入り込んでしまったり、電源プラグの刃(コンセントの金属部分)に触れてしまったりすると大変です。

この瞬間、電気の通り道ができ、バチッ!!と火花が飛んでブレーカーが落ちるショート(短絡)事故が発生します。

「そんな偶然起きないだろう」と思われるかもしれませんが、コンセント周りは配線がごちゃごちゃしがちで、アース線の先端が予期せぬ動きをすることは十分にあり得ます。

火花が周囲のホコリに引火すれば、火災につながるリスクさえあるのです。

3. 小さなお子様やペットのいるご家庭のリスク

垂れ下がった紐状のものは、小さなお子様やペット(特に猫ちゃん)にとって格好のおもちゃに見えてしまいます。

ここも注意!

アース線自体に電流は流れていませんが、家電製品によってはわずかな「誘導電流」が発生しており、口に含んだり舐めたりするとピリッと感じることがあります。

驚いて転倒したり、誤って噛みちぎって銅線を飲み込んでしまったりする事故も防がなくてはなりません。

プロが教える!繋がない場合の正しい処置方法

もし、どうしてもアース線を繋ぐ場所がなく、工事や対策もすぐにはできないという場合は、以下の手順で「絶縁処理」と「固定」を必ず行ってください。

手順作業内容
①先端を保護するアース線の先端で銅線が露出している部分を、ビニールテープで完全に巻き込みます。銅線が少しでも見えないように、少し厚めに巻いて「絶縁」してください。
②コンパクトにまとめるアース線が床につかない長さまで巻き上げ、結束バンドやビニールタイで束ねます。この時、電源コード(黒や灰色の太い線)とは一緒に束ねないのがコツです(電源コードは束ねると発熱のリスクがあるため)。
③背面に固定する束ねたアース線を、養生テープなどで家電の背面や側面に貼り付けて固定します。これで掃除の邪魔にならず、誤って引っ掛けるリスクもなくなります。

「使わないなら切ってしまえばいい」という方もいますが、将来引っ越した先で使う可能性や、リサイクルに出す時のことを考えると、切断せずにまとめておくのが一番スマートな方法ですよ。

線が切れたり床に垂らす状態のリスク

アース線をつけないとどうなる?場所がない時の対処法

「繋ぎたい気持ちはあるけれど、肝心のコンセントにアース端子がない!」というお悩みは、特に古い団地やアパート、築年数の経過した戸建て住宅では本当によくあります。

ここでは、物理的にアースを繋ぐ場所がない場合の具体的な対処法について、現場の知恵を交えて解説します。

コンセントに差し込み口がない場合の解決策

「アース線を繋ぎたいのに、肝心のコンセントに穴(端子)がない!」というご相談は、実は私のところに来る依頼の中でもトップクラスに多い案件です。

特に築年数が少し経ったマンションや戸建て住宅では、リビングや居室のコンセントが普通の2つ穴タイプになっていることがほとんどですよね。

この場合、最も確実で、かつ将来にわたって安全を保証できる解決策は、「電気工事店に依頼して、コンセント自体をアース付きのものに交換・増設してもらう」ことです。

「工事」と聞くと大掛かりに感じるかもしれませんが、実は壁の裏側の状況によって、作業内容や費用が大きく変わってきます。プロの視点で、以下の3つのパターンに分けて解説しましょう。

【重要】DIYは法律違反です!

「コンセントのカバーを外して線を付け替えるだけなら自分でできそう」と思われるかもしれません。

しかし、コンセントの交換や配線に関わる作業は「電気工事士」の国家資格(第二種電気工事士以上)が必要です。

無資格での作業は、感電や火災の原因になるだけでなく、法律(電気工事士法)で禁止されています。ご自身やご家族の安全のためにも、必ず有資格者にご依頼ください。

(参考:経済産業省『電気工事士法』)

パターン1:壁の中に隠れている場合(ラッキーパターン)

これが一番費用も安く、時間もかからないケースです。

実は、建物が建てられた時に「将来のためにアース線だけは配線してあるけれど、コンセント自体はアースなしのものを付けている」ということが稀にあります。

この場合、私たちが現場でコンセントを開けて中を確認し、隠れているアース線を見つけ出せれば、それを新しい「アース付きコンセント」に接続するだけで完了します。

作業時間は15分〜30分程度。壁を壊す必要もありません。

パターン2:分電盤から引っ張ってくる場合(標準パターン)

壁の中にアース線がない場合は、電気の元である「分電盤(ブレーカー)」から、新しくアース線を引いてくる必要があります。これが最も一般的な「アース増設工事」です。

アース線は天井裏や壁の中を通せればベストですが、構造上それが難しい場合は、壁の表面にモール(配線カバー)を貼って、その中に線を通す形になります。

少し見た目に配線が出ますが、確実なアース接続が確保できます。

パターン3:地面にアース棒を打ち込む場合(D種接地工事)

分電盤からの配線も距離的に難しい、あるいはマンションではなく戸建ての1階などの場合は、庭や地面の土に直接「アース棒(銅製の棒)」を打ち込み、そこから壁を貫通させて室内にアース線を引き込む方法をとります。

これは「D種接地工事」と呼ばれる本格的な工事で、地面の抵抗値を測定しながら行う専門的な作業になります。

工事内容と費用の目安

それぞれの工事にかかる一般的な費用と時間の目安をまとめました。業者選びの参考にしてください。

工事の種類作業内容費用の目安作業時間
コンセント交換 (線がある場合)既存のアース線を活用し、プレートのみ交換5,000円〜10,000円約30分
アース線増設 (分電盤から)分電盤から室内へ配線ルートを作成15,000円〜30,000円1〜2時間
接地工事 (アース棒埋設)地面への打ち込みと引き込み配線15,000円〜25,000円1〜2時間
Information

上記はあくまで一般的な相場です。建物の構造や配線の長さによって変動します。

「費用がかかるなら諦めようかな」と思われるかもしれませんが、一度工事をしてしまえば、その先何十年も安心して家電を使えるようになります。

特に洗濯機や電子レンジなど、毎日使う家電の安全を守る投資として、ぜひ検討してみてください。

実際にアース付きコンセントへの交換とアース棒の設置を行った施工事例も掲載しています。

工事の流れや費用感をイメージしたい方は、『アース付きコンセント交換とアース工事の重要性やメリットを専門家が徹底解説〜相模原市の施工事例より〜』も参考にしてみてください。

コンセントに差し込み口がない場合の解決策

アパートで場所がないときはどうすればいいですか?

賃貸アパートやマンションにお住まいの場合、入居者の判断で勝手にコンセントを交換したり、壁に穴を開けて配線したりすることは契約上できません。

まずは管理会社や大家さんに「洗濯機を使いたいがアース端子がなく、漏電が心配なのでアース付きコンセントに交換できないか」と相談してみましょう。

最近は安全意識の高まりもあり、水回りの設備不備として理解を示し、貸主負担で工事を手配してくれるケースも増えています。

もし断られた場合でも、「自費で工事をして退去時に原状回復する」という条件で許可が下りることもあります。まずは諦めずに交渉してみることが大切です。

賃貸物件でアース端子がない場合のより詳しい対処法や、管理会社への相談のコツについては、『アース線をつける場所がない賃貸!その対処法と安全な使い方』の記事にまとめています。

物理的につける場所がない環境での対応策

もし管理会社の許可が下りず、工事もできないという八方塞がりの場合はどうすれば良いでしょうか。その場合は、「アース線がなくても感電リスクを極限まで下げる工夫」をするしかありません。

  • 水気のある場所には、アースが必要な家電を極力置かない。
  • 濡れた手で家電のスイッチや本体金属部に絶対に触れない。
  • 家電の下にゴム製の絶縁マットを敷き、漏電しても電気が床に流れないようにする。
  • 使用しない時はこまめにコンセントからプラグを抜いておく。

これらは根本的な解決にはなりませんが、自分自身を守るための最後の自衛手段です。特に「濡れた手で触らない」は徹底してください。

コンセントにアース端子がない場合の対処法や、つないではいけない場所については、電力会社も具体的な解説を公開しています。

(参考:コンセントにアース線をつける場所がない時の対処法は?正しい付け方や代用品も解説!|関西電力

物理的につける場所がない環境での対応策
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つけない場合の対処法と代用品の活用

工事ができない環境での強力な助っ人が、「プラグ形漏電遮断器(ビリビリガードなど)」です。これは、壁のコンセントと家電のプラグの間に挟んで使うアダプターのような製品です。

これを付けておくと、万が一漏電が発生した瞬間に、内蔵されたセンサーが異常を検知して0.1秒以内という高速で電気を遮断してくれます。

アース線のように電気を地面に逃がすわけではないので、「感電そのもの」を完全に防ぐことはできません(一瞬ビリッとはきます)。

しかし、電気が流れ続けることを防ぎ、致命的な事故や火災になるのを未然に防いでくれます。ホームセンターや通販で数千円で購入できるので、アースが取れない洗濯機や電子レンジには必須のアイテムと言えます。

プラグ型漏電遮断器の仕組みや選び方、実際の使い方については、『プラグ型漏電遮断器はアース線の代わり?使い方や注意点を解説』の記事で詳しく解説しています。

届かない時は専用コードでアース線を延長しよう

「キッチンのコンセントにはアース端子があるけれど、電子レンジを置きたいラックまであと2メートル届かない…」というケース、現場でも本当によく遭遇します。

コンセントの位置と家具のレイアウトが完璧に合うことなんて稀ですよね。

アース線は途中で繋いで延長しても、電気的な安全性や機能に問題はありません。長さが足りないからといってアース接続を諦める必要は全くないので安心してください。

ここでは、電気工事士である私が現場でも実践している、安全確実な延長方法を3つご紹介します。

方法1:今ある線に継ぎ足して延長する(最も低コスト)

家電から出ている短いアース線の先に、新しいアース線を継ぎ足す方法です。ホームセンターの電材売り場に行けば、必要な部材は数百円で揃います。

用意するもの

  • 延長用アース線(VSF線 1.25sq など) 家電のアース線と同じ、緑色の柔らかい「より線」タイプを選びます。
  • カッターナイフまたはワイヤーストリッパー 被覆(ビニール部分)を剥くために使います。
  • レバー操作型コネクタ(WAGOなど) 【重要】家電のアース線は柔らかい「より線」のため、一般的な「差し込みコネクタ」は使えません。必ず「より線対応」のレバーで挟むタイプを選んでください。
プロの推奨手順
  1. 家電側のアース線と、買ってきた延長用アース線の先端を、それぞれ1.0cmほど被覆を剥いて、中の銅線を露出させます。
  2. 「レバー操作型コネクタ」のレバーを上げ、剥いた銅線を奥まで差し込みます。
  3. レバーをパチンと下げてロックします。軽く引っ張って抜けないことを確認すれば完了です。

ねじってテープ巻きはNG!

銅線同士を指でねじり合わせ、その上からビニールテープを巻くだけの接続(通称:手巻き)は避けてください。

時間が経つとテープの粘着力が落ちて剥がれたり、ねじった部分が緩んで接触不良を起こしたりする原因になります。必ず専用の「コネクタ」か「圧着端子」を使いましょう。

方法2:長いアース線に丸ごと交換する(見た目スッキリ)

「継ぎ足すと途中のコネクタがゴロゴロして見栄えが悪い」という場合は、家電本体に付いている短いアース線を外して、長い一本のアース線に交換してしまうのが一番きれいです。

多くの家電(電子レンジや洗濯機など)のアース線は、本体の裏側でネジ止めされているだけです。プラスドライバーでそのネジを緩めれば簡単に取り外せます。

代わりにホームセンターで買ってきた長いアース線(5mや10mのものも売っています)を取り付ければ、継ぎ目のないスマートな配線になります。

Information

ただし、機種によっては内部の基板に接続されており、分解しないと交換できないものもあります。その場合は無理をせず、方法1の「継ぎ足し」を選んでください。

方法3:アース対応の電源タップを使う(一番手軽)

「工作は苦手だし、工具も持っていない」という方に最もおすすめなのが、「アース線対応の延長コード(電源タップ)」を使うことです。

一般的な延長コードではなく、「3ピン対応」や「アース端子付き」として販売されているOAタップを使用します。これを使えば、壁のコンセントのアース端子から手元までアースラインを引き込むことができます。

タップ自体にアース線を繋ぐ機能がついているので、そこに家電のアース線をネジ止めすればOKです。これならカッターやコネクタを使う必要もなく、誰でも安全に延長できますよ。

ネジ式やワンタッチ式など正しいアース線の付け方

いざ繋ごうと思っても、端子の形状がよく分からなくて断念してしまう方もいるでしょう。主なタイプは以下の2つですので、ご自宅のコンセントを確認してみてください。

タイプ特徴と付け方
ネジ式昔ながらのタイプで、プラスドライバーが必要です。蓋を開けて中のネジを少し緩め(外さないように注意!)、アース線の先端の金属部分をネジの隙間に巻きつけるように挟み込んでから、しっかりとネジを締め直します。
ワンタッチ式最近の住宅に多いタイプです。工具は不要で、蓋を開けると穴があります。アース線の先端(銅線)をまっすぐに整えて、穴の奥まで「グッ」と差し込むだけでロックされます。抜くときはマイナスドライバーなどを解除穴に入れて引き抜きます。
ネジ式やワンタッチ式など正しいアース線の付け方
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水道管やガス管への接続は絶対にNG

「アース線が届かないから、近くを通っている金属のパイプに巻き付けておけばいいだろう」 「地面に埋まっている金属なら、なんでもアースの代わりになるはず」

現場でも稀にこのような自己判断をしてしまっているケースを見かけますが、これは極めて危険な行為であり、法律(電気設備の技術基準)でも厳格に禁止されています。

間違った場所に接続すると、アースの効果が得られないどころか、ガス爆発や水漏れ、火災といった深刻な二次災害を引き起こす引き金になりかねません。

ここでは、なぜそれぞれの場所がNGなのか、その恐ろしい理由を具体的に解説します。

1. 最も危険!命に関わる「ガス管」

絶対に、何があっても接続してはいけないのがガス管(都市ガス・プロパンガス)です。

もしガス管にアース線を繋いでしまうと、万が一漏電した際や、接触不良でパチッと小さなスパーク(火花)が発生した瞬間に、ガス管の継ぎ目などから微量に漏れていたガスに引火する恐れがあります。

これが起きると、ガス爆発という取り返しのつかない大惨事になります。ご自身だけでなく、近隣の方々の命まで危険に晒すことになるため、法令でも特に厳しく禁止されています。

2. 昔の常識は通用しない「水道管」

「昔は水道管にアースを繋いでも良いと聞いたことがある」という方がいらっしゃるかもしれません。

確かに昭和の時代など、水道管がすべて「鉄管」や「鉛管」だった頃は、接地極としての代用が認められていた時期もありました。

しかし、現在は状況が全く違います。

樹脂管(プラスチック)が主流

現在の住宅の水道管は、腐食に強い塩化ビニル管やポリエチレン管などの「電気を通さない樹脂製」がほとんどです。これではアースとして全く機能しません。

電食(でんしょく)のリスク

仮に金属製の水道管だったとしても、常に電気が流れる状態になると、電気分解のような反応が起きて金属が急速に腐食(サビ)します。

これを「電食」と呼びます。結果として水道管に穴が空き、壁の中で水漏れ事故を引き起こす原因になります。

3. 雷を部屋に引き込む「避雷針」

マンションやビルの屋上にある「避雷針」のアース線。これも絶対にNGです。避雷針は、雷という数万アンペアもの超高電圧を地面に逃がすための通り道です。

もしここに家電のアースを繋いでしまうと、雷が落ちた瞬間、その莫大なエネルギーがアース線を逆流して家電側に流れ込んできます(逆流雷)。

その結果、家電製品が内部から爆発したり、火を吹いたり、その場にいる人が大火傷を負ったりする危険があります。

避雷針と家電のアースは、地中で明確に距離を離して設置しなければならないという決まりがあるほど、混ぜると危険なものなのです。

絶対につないではいけない場所まとめ
接続先危険性の理由
ガス管【爆発の危険】引火によるガス爆発事故に直結します。
水道管【効果なし・水漏れ】樹脂管だと効果ゼロ。金属管でも腐食して穴が空きます。
避雷針【逆流雷・感電】落雷時に大電流が室内に逆流し、機器破損や火災を招きます。
電話線のアース【通信障害】通信機器の故障や、ノイズによる通話・ネット障害の原因になります。
Information

アース線は必ず「コンセントのアース端子」または「適切に工事された接地極」にのみ接続してください。

家電メーカーも、アース線の役割やつなぎ方、絶対につないではいけない場所について詳しく注意喚起しています。

(参考:家電のアース線って何?安全のために知っておきたい、正しい付け方|Panasonic

水道管やガス管への接続は絶対にNG

まとめ:アース線をつけないとどうなるのかを正しく理解しよう

ここまで、アース線を接続しない場合のリスクや、物理的に繋げない場合の対処法について詳しくお話ししてきました。最後に、プロの電気工事士として、改めて今回の要点をお伝えします。

「アース線をつけないとどうなる?」という問いに対する答えは、シンプルですが非常に重いものです。

それは、「あなたとご家族の命、そして大切な家を、防げるはずの電気事故の危険に晒し続けることになる」ということです。

記事の重要ポイント振り返り

感電リスク
アースがないと、漏電した際に人の体が電気の通り道になり、最悪の場合は死亡事故につながります。

火災リスク
漏電が放置されると熱を持ち、見えないところで発火する「漏電火災」の原因になります。

家電の故障
雷サージなどの異常電圧から家電を守る役割も果たしています。

諦めないで!
コンセントに端子がなくても、アース線の延長や漏電遮断器(ビリビリガード)の活用など、できる対策は必ずあります。

普段、アース線は邪魔な存在に見えるかもしれません。「掃除のときに引っかかるし、見栄えも悪いから切ってしまいたい」というお気持ちもよく分かります。

しかし、その一本の細い緑色の線が、いざという時にブレーカーを落とし、電流を地面へ逃がし、皆さんの生活を守る「命綱」になるのです。

もし今、ご自宅の洗濯機や電子レンジのアース線がぶら下がったままになっているなら、ぜひ今日から対策を始めてみてください。

ホームセンターで部材を買って延長するのも良いですし、まずは漏電遮断器をポチッと注文するだけでも大きな一歩です。

「自分ではどうすればいいか判断できない」「コンセントの増設工事を検討したい」という場合は、決して無理な自己判断はせず、私たちのような電気工事のプロにお声がけください。

横浜電気工事レスキューでは、お客様の住環境に合わせた、最も安全で確実なアース対策をご提案させていただきます。

電気の安全を守るパートナーとして、いつでも頼りにしてくださいね。

まとめ:アース線をつけないとどうなるか正しく理解
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